白い篭の中に居る蜘蛛を飼う蝶
目が覚めるとそこは、観たこともないような部屋だった。
少し大きめの窓から射す光。
真っ白い壁に囲まれた部屋、ドアが一つ、窓が一つ、ベットが一つ。
そこで気付く、俺はさっきまでベットで寝ていたのだと。
俺・・・・・
俺って、一体誰なんだろう?
何故俺は、俺と判別できるのだろう。
そうだ・・・・・
此処は何処なんだろう。
何故だ・・・・記憶が、ない。
ズキッ
こめかみの辺りが疼いた。
あぁ、俺はどうなってしまったんだろう・・・・・。
頭の中が少しぼんやりして、考えるのも難しくなってきた。
コンコン
ぼんやりした頭を醒ますかのように、一つしかないドアからノックの音が聞こえた。
ガチャリ
ドアが開くと見知らぬ男の人が入ってきた。
「し、慎、一郎・・・!!」
『シンイチロウ』・・・?
彼は目に溜めた涙を流しながら俺に近づいてきた。
「・・・・慎・・・・」
もう耐えきれないと言う感じで彼はその場で泣き崩れた。
俺はただ、彼を見下ろすしかできない。
『しんいちろう』
彼はさっきそう言った。もしかしてそれは「俺」の名前のことだろうか・・・?
「あの・・・・」
泣いている彼に声をかける、彼は辛そうな顔をして俺を見る。
「さっき・・・・その、シンイチロウって、言いましたよね?」
彼は涙を拭い、立ち上がる。
「あ、ああぁ、そうだ・・・・。慎一郎、伏見慎一郎、お前の名前だよ」
彼は泣いているのに、何故か微笑んでいた。
「俺の名前は杏太、りょうただよ」
「杏太・・・・さん」
「あぁ、そうだ」
「あの・・・俺は・・・」
聴きたいことが多すぎて言葉が続かなかった。杏太さんが口を開く。
「慎一郎、お前は3日前に交通事故にあって・・・・記憶をなくしたんだ」
交通事故・・・・記憶を・・・なくす?
「断片的な記憶喪失らしい。まだ完全に忘れてはいないが・・・・」
俺が?
あれ、杏太さんが喋っているのに、俺きいていない。
聞かなくちゃういけないのに、俺・・・・違うこと・・・を・・・・
「・・・ちろう?・・・慎一郎?」
「あ・・・・あっ・・・」
思い出しちゃ行けない、思い出しちゃ行けない・・・でも、こめかみが疼く
頭が・・・
「うっ、うわああああああああぁああああぁぁっ!!」
「慎一郎!!」
全身が痙攣を起こし、涙がこぼれ、訳も分からない言葉を叫び続ける。
ベットの軋む音、ここから逃げ出したい気持ちが溢れる。
「慎一郎っ!!」
杏太さんがはっきりと俺の名前を呼んで痙攣する体を抱きしめる。
力強いけど、優しい腕、温もり。
「慎一郎・・・・大丈夫だから・・・・、俺は、ずっと慎一郎と一緒にいるから」
耳元ではっきりときこえたその言葉に、涙した。
「思い出したくないところは思い出さなくても良いから・・・だから、俺と一緒にいよう」
「・・・・う、うん」
優しい体にそう返事をした。
ずっと一緒にいてくれる相手が居るから。安心できた。
続→