バタン

落ち着きを戻した慎一郎を医者に任せて病室を後にし、俺はロビーに向かった。
慎一郎には嘘をついた。
彼のための嘘である、みんなも、賛成してくれた。


彼はあの日、交通事故なんかじゃなくて、強姦されたのだ。


交通事故のほうが幾分ましだ。
慎一郎の体には無数の爪痕が残っていたのだから。
それを聞かされたときにははらわたが煮えくり返る様な怒りを覚えた。


「杏太っ!」
ロビーのソファーで座っていたがおとたかしが立ち上がる。
「慎くん・・・・どうだった!?」
「あぁ、やっと起きたけど・・・・ショックで記憶が・・・」
「・・・・そっかぁ」
がおが再びソファーに腰をかける。たかしは俯いたまま。
「すまない・・・・俺のせいだ、俺のせいで慎一郎は」
「違う!」
がおが否定した。
「だって俺・・・俺があのとき慎一郎をちゃんと引き留めていたらこんな事には!」
「杏太のせいじゃない!!」
「ちが・・・だって俺が・俺があのとき一緒にいたら・・・・」
「杏太っ!」

「杏太!」

たかしが大きな声を出して止める。
「もう・・・誰のせいでもない。・・・・そんなことより、これからを決めよう」
その言葉で、みんな我に返る。
「そう、そうだな」
「俺、これから慎一郎と一緒に暮らすことにするよ」
みんなで顔を合わせる。
「別に責任とか、そういうのじゃなくて・・・・俺は、あいつが大切だから。だから、ずっと側にいようと思ったんだ」


あんなに恐怖していた慎一郎なんて、もう観たくないから・・・。

早くいつものように五月蠅くなって欲しい、馬鹿にされても、おちょくられても構わないから・・・

だから・・・・いつもの慎一郎に戻って欲しい。


「・・・あぁ、その方が良いな」
「うん・・・俺達もなにか力になるからな、何でも言ってくれよ!」
「ありがとう」



はやく五月蠅すぎる日常に戻しておくれ、慎一郎。





続→





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